2015年4月25日土曜日

『エネルギー問題入門』(リチャード・ムラー)

『エネルギー問題入門』(リチャード・ムラー)

以下、昔まとめた本であるため、フォーマットが多少異なる。


将来の国を担う人材に向けて、各種エネルギーの特性を概説した良書。
本書の中では石炭や石油による従来の発電法から、水素発電や核融合のような最新理論まである程度まとまって記載されている。
しかし、本書の記述はあくまで”アメリカ”の将来的指導者へ向けたものであり、他国、特に日本においては相当状況が異なっているはずである。

本書を読むにあたっての目的は3.11以降、原発反対を始めとしたエネルギー論争が巻き起こる中で
様々なされる感情論、印象論から一歩離れて未来のエネルギーのあり方について考えるためである。

感想のまず第一点としては、政策作成者は勿論のこと、議論に参加するに当たって、科学的な議論に乗っかって議論をすることの重要性である。
メディアなどを見ている限り、原発はただただ悪影響しか及ぼしていないように見える。また原子力ムラなどのキーワードが跋扈する。
しかし原子力はなぜ導入されたのか、他の発電法との違いはなんなのか等を理性的に議論をすることが重要である。

メディアや被害者は往々にして、当該問題に対してネガティブな指摘を行うのみである。それは仕方なく、さらにそれに価値がない訳ではない。
しかし、私は批判した上で、なぜ批判するのか、根本的課題はどこにあるのか、そして対案を示すことが重要であると思う。
私のこの視点は公共を想う利他性のみに乗っ取っているのだろうか。その側面は一部あるだろうが、全てではない。私はそれほど善人ではない。
このような客観性を持っていないものに対する嫌悪感故であろうと想う(自己分析)

さて、エネルギー問題を考えるに当たって重要なことはなんであろうか。
本書を読んだ上で、考えるべきは、
・コスト(コストと一口に言っても、その中で初期投資と運営費用、将来的な価格低下の可能性=時間軸も考慮するべきであろう。)
・環境への影響
・エネルギー源の規模(=持続性?)
・人的影響(原発や大気汚染による人的被害等)
・廃棄処理の可能性
・当該エネルギーに対する人々の教育度合い(原発への印象など)
・エネルギー効率(=コスト?)
・景観への影響

などであろう。
これらを統合的に考慮しての意思決定、意思表示が求められる訳である。

またエネルギー問題を考えるに当たって、その根本的分析を忘れないことは重要である。
現在、温室効果ガスの最大排出量を誇るのは中国であり、これからインドやブラジルなどの経済成長を考えたとき、
これら発展途上国の協力は欠かせない。この点を無視した議論はただの自己満足である。
これは個人的なエコ意識にもつながる。つまり生活者の排出する温室効果ガスがいかほどかを考えずに、
永遠と省エネを実行していても効果は極めて薄いのである。

第二にエビデンスに基づかない、偽善的努力のむなしさである。
一般的に古紙再生や電気自動車の利用は環境に良いものであると思われがちである、しかし本書において、それらの無意味さが説かれていた。
つまり環境を配慮した活動の様々が環境に実は悪影響を与えているケースは頻繁にあり、それらの偽善的行為の押しつけは無意味であるということである。

第三に一般大衆の未知への怖れと、既知への慣れである。
これは原発問題から感じとった。原発は一般人からは未知である。だから、それに大声で反発する。
そして健康問題が起これば、大規模な訴訟が起こる。
しかし、思えば原発による死亡よりもはるかに津波による死亡の方が多いし、
何より肥満などによる問題の方が多い。ここから分かることは、
①自分に関係がありそうな問題に対しての意見に集中しがち
②自分に未知な問題を過大評価しがち
③身近にある最大の問題は軽視しがち

まあ、自分が影響が及ぼせない(=原発)ものを批判し、自分が影響を及ぼせるもの(=肥満や喫煙など)に関しては
目をつむるとは中々良い態度とは思えない次第である。

第四は科学の面白さ。これからも定期的に触れていこう。自然科学の歴史は人間の叡智の歴史である。

【エネルギー問題】
エネルギー問題を他の問題より複雑にしている点としてエネルギーの備蓄の難しさという点にあると感じた。
備蓄できないが、故に電力会社は将来の電力需要を予想せねばならない。
故に効率性が低くなっている現状があるのだろう。

アメリカはシェールガス、シェールオイルの豊富さからエネルギー面でそれほどの苦難を強いられることはなさそうである。
またそれに反比例して(?)、中東の価値は暴落しそうである。中東が他の事業への投資を加速化している理由が伺える。
また専門性が求められる分野だからこそ、楽観主義バイアスと懐疑主義バイアスには注意しなくてはならないのだろう。


【日本のエネルギーの将来】

様々踏まえて、日本のエネルギー政策はどうあるべきであろうか。
まず日本の現状を分析するに何らエネルギー源を持たない状況である。(メタンハイドレードが海洋に眠っているらしいが、今回は考慮しない。
メタンハイドレードの運用可能生は低いらしい。)
エネルギー源がないということは輸入に頼っているということであり、非常に不安定な状態にあるということであろう。
日本はアメリカ以上にエネルギーの安全保障(分散)などの観点が求められると思われる、

エネルギー生産の面から、まずアメリカにおけるシェールガス、シェールオイルの拠出による原油価格の下落は享受できるだろう。
それを考慮してもエネルギーの分散の観点から、原発も保持せざるを得ない。(コストも安いし、何より日本は技術的優位を持っている)
今後もこの両軸を動かすことはできない。

消費の面からは日本の省エネ技術の優位性を追求していくことにある。

結果、非常に当たり前の議論になってしまう。
日本は原発を保持すべきである。というよりも原発を保持せざるを得ない。
自然エネルギーはコストの高さや不安定性の観点から、頼ることはできない。
原発を一定程度保ちつつ、火力などで天然ガスなどの低CO2排出の素材への移行を進める、
比重を高めるなどが現実的ではないかと考える。

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